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「大した気して」と言われる福島でチャレンジを増やすには? 『福島コトひらく』の仕掛け人が語るこれからのコミュニティスペースの創り方(NPO法人コースター 岩崎大樹さん)

岩崎 大樹(いわさき たいき)
特定非営利活動法人コースター代表理事

1976年郡山市出身。千葉大学工学部工業意匠学科卒業後、ランドスケープ設計事務所に勤務。2001年福島に戻り、家業のガラス加工業に従事する傍ら、まちづくりNPOやNPOの中間支援団体に参画。2008年から郡山市でコミュニティスペース運営を通じ自分たちで地域を変えていける若者を増やす活動を続けている。2013年に地域変革の担い手育成のためのNPO法人コースターを設立。

目次

・場所の提供と活動支援は車の両輪 ─コミュニティスペースをつくったきっかけ─

・次の世代にバトンタッチしていく ─これからの自分の役割─

・仲間がいるからやる気が出る ―コミュニティスペースの役割―

・「大した気して」と言われる福島でコトを始める ─コミュニティスペースの仕掛け─

・門戸は広く、でも濃く ─これから目指すコミュニティの形─

 

 

場所の提供と活動支援は車の両輪 ―コミュニティスペースをつくったきっかけ―

工事中の福島コトひらく工事中の福島コトひらく

──地域で若者が繋がり交流しながらチャレンジしていくコミュニティスペース「ぴーなっつ」が、コワーキングスペースやレンタルオフィスとしての機能も兼ね備えた活動創出拠点「福島コトひらく」へと規模も大きくリニューアルします。そのオープン直前、代表の岩崎大樹さんにお話を伺います。岩崎さんが、今一番熱中していることはなんですか?

6月27日のオープンに向けて追い込みの、「福島コトひらく」という若者の活動創出拠点を、きちんとスタートさせて人に集まってもらうことが、今一番力をいれているところです。

拠点をつくるといっても、自分がやっていることは「場所」の運営だけでもなく、「活動」の支援だけでもなく、常に車の両輪だと思っているんです。ぴーなっつを始めたとき、「場所」があって人が集まる。集まった人たちが話しをながら、小さくても「活動」を形にしてきました。そういう両輪がある状態をこれからも続けていきたいというのがあります。

ぴーなっつでの活動と並行して、3年前から、田村市の復興応援隊の活動で、地域の中に若者が入って住民と一緒に何かを生み出すという試みを続けてきました。その中で、少しずつですが地域で新たなチャレンジが生まれてきました。それもあって、若者が集まる場所を大きくするチャンスに巡り会うことができたのです。この「福島コトひらく」からいろんな活動する人がさらに何百人と生まれていってほしいです。

活動といっても、全部が全部ビジネスにしようというのでは無くていいのです。福島の中でやりたいこと、やれることがあると思うなら、自分なりに周りや社会に働きかけることが大事。その中でビジネスになるならビジネスになればいいし、趣味で十分ならそれでもいいんです。

むしろ「動いたって仕方がない」とか「誰かに任せていればいい」というのは減ってほしい。自ら動く人が増えることに力を入れたいです。場の提供と動く人たちのつながりの裾野を広げていきたいと思っています。

──岩崎さんをそのように動かしている原動力だったり、きっかけとはどういったものですか?

自分でも何がエネルギー源になっているかはよくわからないです(笑)ひとつ言えるのは、自分は団塊ジュニアの最後の世代で、子供の頃は商店街もそれなりに賑わっていたのが、だんだん大手スーパーに統合されていったり個人商店が無くなっていく状況を見てきました。私は25歳になる前に郡山に戻ってきたのですが、そういうのを学生の頃からどうにかしたい、地元に戻ったなら地域活性化みたいなことに関わりたいと思っていました。

戻ってきてから、実際に商工業者の集まりだとかNPOで活動しているところに顔を出したけれども、自分と同じ世代でそういうのにどんどん関わっていこうという人が全く見つかりませんでした。

同世代がいないのなら、修行だと思って上の世代の人の活動について回ってお手伝いしていたのですが、やはり方向性の違いだとか問題意識が自分の考えと重ならないところがありました。

今は、おしゃれなカフェに集まって街歩きをするような活動が自然に行われるようになってきたけれど、そういうものに対して価値を共有してくれる人が全くいなくて、ひとり悶々と過ごしていたんですね。その時にたまたま若者の就労支援をしているNPOのスタッフで同じ歳の人と会いました。NPOで福島でフルタイムに働いている人に会ったのは初めてでした。

若者の就労支援と、自分の考えている町づくりや地域興しとは違ったけれど、その人とだったら自分がやりたいと思っていたことが出来そうだと思ってこの場所(ぴーなっつ)を使って地元の学生と飲んだり喋ったり歌ったりということを始めたんです。それがきっかけですね。

上の世代の人たちに対する反発ではないけれど、自分たちの世代でなにかやらなければいけないなという想いがありました。一方で、これだけたくさんの下の世代の人たちが動き出すと、同じ部分は自分はもういいかなって思い始めています。その中で、またこれからの自分の役割だとかやりたいことの核心部分だとかを40歳を前にして迷い出している感じがあります。

次の世代にバトンタッチしていく ―これからの自分自身の役割―

実はもう、こういう活動を始めてこれまでやってきたけれど、そろそろ後片付けになってきたかなって思ってきています。20代30代前半の世代で面白いことをやっている人にたくさん出会ったし、今は出会ってなくても福島にはたくさんいるんだと気付いてきたので、自分が6年7年やってきたことに、一旦どう区切りをつけて次のことに移るかを考えています。

私は地元の零細企業の跡取りで、東京時代も含めても、会社の中に3人4人ぐらいしかいない所の経験しか無いので、十数人抱える組織を自分でやってみて、自分よりうまくやれる人はたくさんいそうだと思ったし、下の世代にちゃんと渡していったほうがいいなと思ったんです。自分が同じやり方の延長戦で規模を大きくしてやるよりも、そこは一旦整理をして、もっと若い人たちが動きやすいほうにしていったほうが大切かなと。まぁ、口ではそう言っているものの、まだ下の世代に迷惑をかけまくっていますが。

──そういう意味での後片付けなんですね。

そうですね。辞めるわけではなくて、いったん身辺整理です。40代になったら40代なりの、地元で商売をやっている家に生まれて、そのあたりの付き合いや繋がりがある自分なりの、下の世代の動きいている人に対する関わり方があるんじゃないかなと思うのです。

──タイミング的には「福島コトひらく」がオープンして、活動の中身も大きく変わっていく時期だと思うのですが、「福島コトひらく」の運営部分に関しても下の世代に任せようという感じですか?

若い人の活動創出拠点なので、その同じ世代の人たちが考えたほうがうまく意見や考え方が合致する確率が高いと思います。上の世代の人が、若い人はこういう場所が必要だろうとやると失敗するんじゃないかと。コンテンツ作りだとかそこで行うイベントの企画運営は任せて、自分はこの場がなるべく続いていけるようにする。それから、中にいるだけでは繋がれない大人とか、他のリソースとか資源とか協力者をうまく引っ張ってくるのが自分の役割になるかと思います。

──若者のための場として、そこを維持するためのサポート役になる?

サポート役になるだけではなくて、きちんとここを続けていく為のセーフティーネットになる条件を整えるということと、障害が発生したときにそれを潰していくのが自分の役割かと思います。団体の規模が大きくなってきて、一番上の責任者である私が頭を抱えてどうしよう、こうしようと迷っているのは現場にとっては動くネックになるので。

田村市復興応援隊のほうは、現場のスタッフも育ってきてこちらの判断を仰がなくても、住民にとっていい選択を自分たちで考えるようになってきています。私は、現場がどう進めたらいいのか迷わないように、委託してくれている行政とのやりとりをして、なるべく裏方で調整してあげる。そこに集中していけたらいいなと思っています。

「福島コトひらく」についても、若者の利用者以外に協力してくれる地域の人や、面白がって関わってくれる大人の人たちをどうやって増やしていくかというところが自分のやらなきゃいけないことかなと思います。

 

 

仲間がいるから安心感や情報が得られてやる気が出る ―コミュニティスペースの役割―

震災を機にいろんな人たちが福島に注目してやってきて、SNSでの繋がりも含めて、色んな人と出会いました。その中で自分と同じ思いをもっていた同世代の人たちとようやく巡り会えた感じがします。実は福島にもたくさんいたんだと気づきました。

いまは震災直後とはまた段階が変わってきたような気がしていて、コワーキングスペースは郡山でもいくつもできてきているし、そこで人や団体が繋がって、同じ思いをもって、向いている方向が同じで、一緒になにか出来るという条件は整ってきたのでそういうのも広めたい。

「何か始めたいけれどもひとりではどうしたらいいか分からない」とか、そもそも始めるという選択肢があるということに明確に気が付いていない人が、集まっていろんな人の話を聞いているうちに始め方が分かるという環境や状況をつくれたらいいなと思っています。

友達の数とやる気を持っていることは非常に関係性が強くて、もちろん中にはひとりで起業してオリジナリティを発揮してやっていく優秀な人もいるけれど、大抵の人は友達や仲間がいて、いろんなやり取りをする中で知らず知らずにやる気をつくっているんです。

余談ですが、田村市復興応援隊が関わっているとある地域で、20年前、地域内でのつながりが希薄になってしまった、40代から50代の人たちが中核になってひまわりでまちおこしを始めました。当時、田んぼを大きくまとめなさいという政策があって、農家としての効率や生産量は上がっても、それまでのように農作業を隣近所で協力しなくなったそうです。そうすると山の風景が荒廃してきて、そういう地域の手抜きになってしまった部分にひまわりを植えて手入れしようと、同年代の人たちがちゃんと集まれる場を作ったのです。

都市部では、こういう問題がより深刻な気がします。情報が溢れている一方で隣近所の付き合いが無いとか、どこからコミュニティに入ったらいいのかとか、会いたい人たちとどう繋がっていったらいいのか分からない。こういうコミュニティースペースやコワーキングスペースみたいな場所は郡山市ぐらいの規模だったら10か所ぐらいあってもいいんじゃないかなと思います。

「大した気して」と言われる福島にはまだ伸び代がある ─コミュニティスペースの仕掛け─

──なにかを始めたいと思った人が、チャレンジをするきっかけややる気の後押しに関しては、どういう仕掛けをしているんですか?

ポイントは3つあると思っています。1つは、集まる場があるということ。2つめは、ロールモデル。輝いている先輩がいる、こうなりたいと思うような先導者に会えるとかです。3つめが気軽に相談できる。この3つがあると、やる気は促進されるんじゃないかなと思います。

最近、参考になったものとして、「地域しあわせラボ」というプロジェクトがあります。「人に対して感謝の気持ちを持っている」だとか、「なにか始めるときに応援してくれる雰囲気がある」とか、そういう地域の特性を指標化したものです。

47都道府県を分析した調査だと、地域によってものすごく差があって、福島は震災の影響もあったと思いますけど、46番目で全国で下のほうなんです。なにかやろうとしても応援が無い。そういうものって土地土地で空気みたいなものだったりすると思うんですよ。こういう活動をするからには、地域の特性をそれなりに見極めてやっていく必要があります。

──チャレンジをしていく場所としての、福島の魅力とはどんなところでしょう。

都道府県のデータで言われているのが、福島の結婚年齢は男女とも若い。それ自体が良い悪いは言えないけれど、三世代同居率が高いとかサラリーの年収が低いとか、そういうものを掛け合わせると、夢を持ってその時いる世界を飛び出して何かやるというよりは、その時自分のいる世界の中で見切りをつけてやっていく安定を選んで、親の世代から言われていることや流れに合わせるという傾向が強い地域だと思います。

それを少しでも変えられる、それ以外の選択肢を見つけられる場の提供をし続けたいと思います。夢をみることや背伸びをすることに対して、まだまだ伸び代がある地域だと思ってます。

福島に移り住んできた人で、方言でびっくりしたと言っていたのですが、「大(たい)した気(き)して」っていう言葉があるんですね。聞いたことありますか?

ちょっと変わったことをやろうとしている人に対して、「そういう器でもないのに大した人物のフリをして」っていうニュアンスで使われるだけれども、これってまさにチャレンジやステップアップを否定する言葉だと思うんですよね。「今までどおり、安定とか現実を見ろ」と。

──そういう風潮があるから、チャレンジすることに尻込みしてしまうということですね。岩崎さんとしてはそれを変えていきたいですか?

50年とか経った後に、地域の空気がずっと肯定的になって、なにかやろうとしている人にエールが送られるように変わってほしいなって思うんです。

「大(たい)した気(き)して」っていう言い回しが無くなって、「がんばっぺ」とか「はじめっぺ」って、もっと日常的に聞こえればいいですね。 

門戸は広く、でも濃く ─これから目指すコミュニティの形─

 

──「福島コトひらく」の前身である「ぴーなっつ」を、コミュティスペースとして始めたときに、若い人が集まる一番最初のきっかけは、なんだったんでしょうか?

場所を開きましたと特に宣伝をしたわけではなくて、同じ歳の若者就労支援NPOのスタッフと知り合った前後に、日本大学工学部と福島大学、両方の学生が入っているボランティアサークルの子たちと出会ったんですね。そのサークルは、こういうことをやるって決まっているわけじゃなくて、その場でやりたいことを見つけながらやっていくスタイルだったので、とりあえず集まってみようかといってここに集まってきたのが最初です。その人たちがまた友達や知り合いを連れてきたりとか。SNSが流行りだしたこともあって、今考えると不思議な広がり方だったなと。SNSで出会った知らない人同士が初対面で旅行に出かけたりもして。

「ぴーなっつ」草創期に出会った仲間たち「ぴーなっつ」草創期に出会った仲間たち

SNSが発達していくことで門戸はひろがったんだけれども、濃いグループだけでやっていると、その人たちだけの場所になってしまって新しい人が入れなくなったすることもある。濃さを保ちつつ、新しい人たちに入りやすい感覚をもってもらうのって非常に難しいなと感じます。でもその辺りを狙っていたいです。

──「コト」を起こすプラットフォームになることを目的としている「ふくしまチャレンジはじめっぺ」と、若者の活動創出拠点としての場所「福島コトひらく」。お互いに協力して行きたいと思います。ありがとうございました。

 

6月26日に開催された「福島コトひらく」オープンニングパーティの様子。ここから多くのチャレンジが生まれていく。(内装は一部工事中)6月26日に開催された「福島コトひらく」オープンニングパーティの様子。ここから多くのチャレンジが生まれていく。(内装は一部工事中)

※当日のインタビューの様子が、NHK福島放送局「はまなかあいづtoday」で放送されました。放送内容は、「はまなかあいづonline」内の「Fのモト『福島人の魅力を発信(2015.7.1放送)』」よりご覧いただけます。(一定期間が過ぎると、閲覧不可となりますのでご注意ください)

 

 

関連リンク

NPO法人コースター公式サイト

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