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【前編】地元のモノづくり技術を活かし、世界一のアウトドア会社へ。

2014年12月20日に行われた株式会社スノーピーク山井社長の講演会、「地域産業の未来を拓く ~会津と新潟の変革の現場から~」の第一部の内容をまとめました。株式会社スノーピーク山井社長によるスノーピークのこれまでとこれからについてをご覧ください。

【目次】

■人間性の回復を使命に、日本にオートキャンプ文化を創る。 ―企業の成り立ち・理念―

■世界初のオートキャンプスタイルを提案。 ―製品・販売形態の特徴―

■年間60泊のキャンプ生活から生まれた最高のテント。―販売形態の特徴・拡大戦略―

■伊勢神宮でも使われている地元のモノづくり技術を生かして。―強み①「つくる」―

■9万人のユーザー様とのキャンプを通じ、世界で一番ユーザーに近い会社へ。―強み②「つながる」―

 

 

人間性の回復を使命に、日本にオートキャンプ文化を創る。 ―企業の成り立ち・理念―

1958年に父が創業しました。92年に亡くなりましたが、父はロッククライミングが大好きで、毎週土曜日になると東三条駅から夜行バスに乗って、群馬や新潟で岩登りをしていました。

本社は5万坪の草地(東京ドーム約4つ分)にあり、本社屋の面積は約1,700坪あります。キャンプ場の中に本社があり、本社にはスノーピークブランドの全てが分かる様、ストア、オフィス、アフターサービスセンター、工場があります。

創業から約30年は登山用品、釣り具の製造・販売がビジネスの中心でしたが、88年に四駆の車やワンボックスカーを使って移動するオートキャンプスタイルを提案し、現在に至っています。

スノーピークが海外に進出したのは96年で、問屋さんとの取引を辞めたのが2000年です。2003年に直営店を創り、2005年からインストアの展開を始め、スノーピークストアを戦略の中核においています。海外の拠点は、米国オレゴン州ポートランド、韓国のソウル、台湾の台北にあります。

スノーピークは企業理念を大事にしている会社で、“The Snow Peak way” という下記のミッションを中枢に据えています。

 

~スノーピークのミッション~

私達スノーピークは、一人一人の個性が最も重要であると自覚し、
同じ目標を共有する真の信頼で力を合わせ、
自然指向のライフスタイルを提案し実現するリーディングカンパニーをつくり上げよう。

私達は、常に変化し、革新を起こし、時代の流れを変えていきます。

私達は自らもユーザーであるという立場で考え、
お互いが感動できるモノやサービスを提供します。

私達は、私達に関わる全てのモノに良い影響を与えます

 

実はアウトドアというのは先進国特有のビジネスで、発展途上国にはマーケットがありません。先進国は文明が進化した国だと言われますが、文明は己を豊かにしてくれる反面、人間性が阻害されて、ストレスを感じる負の側面もあります。そのなかで、当社は、人々の人間性を回復させることを目的に、その手段としてアウトドアライフスタイルを提供しています。主にオートキャンプ用品や登山用品などの企画開発・製造・販売を事業として行っているのですが、自然の中で人と人が繋がる、人と自然が繋がる架け橋になることがスノーピークの事業の本質であると言えます。

 

 

世界初のオートキャンプスタイルを提案。―製品・販売形態の特徴―

アウトドアという言葉は日本で古くからあった訳ではなく、80年代の中盤までは登山以外のアウトドアは殆どありませんでした。当時はパジェロが流行っておりましたが、車というものは、その時代の世相を反映するものなので、アウトドアのニーズが非常に高かったにも関わらず、誰もアウトドアをやらないという変な時代でした。経済的には今の中国の様にジャパンアズNO.1と言われ、世界第二位の経済大国ではありましたが、国民の実感はあまり無い時代でした。

その中でスノーピークは、ドームテント、タープ、その下にシステムデザインされたリビングキッチンを配置するようなスタイル、今の日本や韓国、台湾で定着しているオートキャンプスタイルの原型を88年に作りました。現在、オートキャンプマーケットは、日本で450億円、韓国で500億円、台湾で150億円、3か国で1,100億円程度あります。そのマーケット自体を私たちスノーピークがつくりました。スノーピークだけの製品がオリジナルで、当社から言えばその他はコピー製品です。

 

ソリューションの例

一つ一つの製品も優れており、たき火が囲めるソリューション等が提案可能

 

 

年間60泊のキャンプ生活から生まれた最高のテント。―販売形態の特徴・拡大戦略―

売上の85%がオートキャンプの製品です。登山、バックパッキンの製品は15%です。主にアジアの国々ではオートキャンプの製品を中心に販売していて、欧米のマーケットでは登山・バックパッキング等の製品をメインに販売しています。

国別の売り上げでは、2013年度実績で日本65%、韓国18%、アメリカ12%、台湾5%。ヨーロッパとニュージーランド、オーストリアなど西洋的な文化がある国はアメリカの拠点でフォローし、日本・韓国・台湾の3か国はそれぞれ拠点を置いてビジネスをしています。

 ―スノーピークの販売形態の特徴―

スノーピークストアの販売形態の特徴として、まず問屋を使っていません。2000年以降問屋を使っていないので、競合の皆さんから比べると流通のレイヤーが少ないビジネスモデルです。ダイレクトにエンドユーザーに売っている比率が17%で、業界では1番高い比率を持っています。

当社のインストアという販売形態が特徴的で、例えばアウトドアの専門店さんや、スポーツ量販店さんの店頭に25~30坪の当社用の差別化された売り場を作らせていただいて、スノーピークの社員が店長としてその売り場にはりつき、製品のご説明、ご提案やユーザー様のフォローを担当しています。

小売業のアウトドア、スポーツ業界の年間一坪あたりの売上高の平均値は、100万円程度です。1番優秀なスポーツ量販店で、一坪あたりの年間平均売上高が約120万円だそうです。一方、スノーピークストアは一坪あたり年間平均220万円稼いでいるので、業界の平均の2倍くらいのパフォーマンスを上げています。直営店とインストアを合わせて、当社の店長が販売している比率が売上全体の56%に相当します。

もう一つショップインショップという販売形態、分かりやすく言うと家電量販店の中に完全に差別化されているアップルのコーナーがありますが、あの様な販売形態です。そのショップインショップを当社が作り、取引先ディーラーの社員の方を当社のキャンプ場に招いて、キャンプトレーニングを実施し、「スノーピークマイスター」の称号を与えたうえで母体店にお返しするというモデルが売上の11%です。従いまして売上全体の67%は、完全に差別化されたスノーピークが作った売り場での売上になります。

当社以外は、問屋を通して量販店に商品を流通させ、チラシ(フライヤー)を入れて割引で集客する形態です。お店に行くと接客者がおらず、何を購入して良いか分からないので、安いものをレジに持っていくしかありません。そういう意味では、弊社は自社製品をダイレクトに消費者に伝えながらビジネスをしているといえるかもしれません。

実は、私が最初に作ったテントの販売価格は16万8千円でした。何故、16万8千円のテントを作ったかというと、私自身がヘビーユーザーで、年間60泊くらいキャンプを行っているため、当時の最高の素材使って私の使用に耐えうるテントを普通に作った結果、16万8千円のテントになりました。

80年代後半のことですが、当時市場には量販店やホームセンターで、テントは9,800円や1万9,800円の雨漏りするテントが売られていました。私はそういうものではなく、自分が心から使いたいと思えるものを作ろうとした結果が16万8千円でした。スノーピークの製品にはメーカーとして、自社製品に責任を持つことの証として永久保証をつけています。

今1番売れているテントが2万9,800円で、永久保証つきです。“アメニティドーム”というテントですが、日本だけで年間1万5千張り売れていて、テントですと20万円代から2万9,800円~3万円代で売られている製品レイヤーは、ほぼ当社がシェアーをいただいています。

マーケットシェアーとしては、2012年に7.8%、2013年に8.5%、今年は10%と毎年シェアーアップしています。理由は、2万9,800円のスノーピークのテントは永久保証がついた完璧な品質だからです。皆さんなら、1万9,800円~2万4,800円の雨漏りテントと、2万9,800円のスノーピークの製品どちらを買いますか?

当社の2万9,800円の製品は、他社の流通では5万5千円のぐらいで販売されています。スノーピークのビジネスモデルがシンプルな為、その分安くできるのですが、これができるのはスノーピークだけで、他社と完全に差別化されています。2019年ぐらいには、20%のシェアーを取りたいと考えています。

 

 

伊勢神宮でも使われている地元のモノづくり技術を生かして。
―強み①「つくる」―

スノーピークの強みを2つに分けると“つくる”というフレーズと“つながる”というフレーズに分けられるのですが、”つくる”というところでは圧倒的な開発力があるというということです。

今月、71アイテムの新製品をリリースしました。恐らく世界中のアウトドアメーカーで71の新製品をリリースしたのはスノーピークだけです。世界のアウトドアメーカーの中で1番開発能力があると自負しています。

現在約600アイテムの製品を取り扱っていますが、そのほとんどが自社開発で、他社と圧倒的に差別化ができている製品ばかりです。

今回のテーマに少し関係があるところですが、地元の燕三条には、製造の現場が数多くあります。私は三条工業会という、520社の会員がいる協同組合の理事長をしています。例えば、去年、伊勢神宮は遷宮しましたが、伊勢神宮に使っている和釘は、100%三条工業会が納入しています。三条工業会が無いと伊勢神宮は遷宮できません。

圧倒的なモノづくりの町をベースにしているので、高品質なものができています。燕三条の多くの会社に製造のノウハウがあり、スノーピークがそれら製造技術のプラットホーム役として一挙に集積し、新しいライフスタイルに変換している会社であると言えます。

ここが一つのキーポイントになのかなと思っています。会津や福島県にいろいろな資産があると思いますが、誰かがプラットホームになり、その資産を何かの価値に変換するという作業をしないと消費者に伝わっていかないのではないかと思っています。

あとは1988年に私が作った製品が未だに少し改良されて売れ続けるなど、デザインが洗練されていて陳腐化しにくいことも特徴です。永久保証に関しては、なかなか難しいことですが、キャンプフィールドの中でテストを重ねて品質を確かめています。

当社にとってシンボリックな焚き火台という製品も、繰り返し使っても壊れない品質を備えているので自信を持って永久保証がつけられます。永久保証に関わる経費は、売上の0.15%程度です。今年の着地見込みで売上が54億円の会社なので、その0.15%である600万か700万が永久保証のコストです。

当社の製品についての、社会からの評価としては、Gマークを52製品いただいています。90年から申請しはじめて、年間1個から3個申請し、今まで申請したアイテム数は54アイテムです。54アイテム申請してGマークを52製品取っています。

落選した2つの製品ですが、1つは「トラベル&レジャー」というアメリカの旅行専門誌のデザインの賞を取りました。審査委員長は世界的に大変有名なデザイナーです。Gマークの審査レベルより、「トラベル&レジャー」の審査レベルの方が上です。もう1つはNational Geographic社のデザインアワードを取りました。落選した2つの製品が不思議なことに海外の賞を取っています。

 

 

 9万人のユーザー様とのキャンプを通じ、世界で一番ユーザーに近い会社へ。
―強み②「つながる」―

もう一つは“つながる”という強みです。スノーピークは世界で一番ユーザーに近い会社と他者からそう評価されています。98年からキャンプのイベント、“SnowPeakWay”を始めて、ユーザー様と18年間キャンプをし続けていることがその評価に繋がっています

イベントを通じて年間5千人のユーザー様とキャンプさせていただいています。18年続けていますので延べ約9万人です。スノーピークのポイントカードが11万枚発行されており、アクティブユーザーさんは大よそ7~8万人だと思いますのでで、ほぼ全てのアクティブユーザーさんとキャンプをしている計算になります。そんな社長は世界に私だけで、他には一人もいないと思います。

本社のキャンプ場には毎日お越しいただく事が可能ですので、平日でも土日でもスノーピークにアクセスできます。リアルな場で一緒にキャンプをさせていただく事がベストだとは思うのですが、毎日お会いはできるわけではありませんので、ネットコミュニティーを通じてもつながっています。現在のようなfacebookが流行る10年以上前から、既に「スノーピーククラブ」というネットコミュニティーを作り、SNSを当社が運営してきました。その会員が約7万人なので、丁度私がお会いしている年間5千人の数と近いです。アクティブユーザーさんがほぼ入っていらっしゃるネットコミュニティーを持っております。

もう一つは先ほど申し上げた様に、日本で53店舗あるそれぞれの店長が直接接客し、色々と丁寧なアドバイスをしながら販売するというスタイルのビジネスをしておりますので、非常にユーザーさんに近い会社と言えます。

スノーピークがこのようなビジネスモデルを構築したのは、1998年でした。同年に初めてキャンプのイベントを行いました。当社のユーザーさんは非常にハイエンドなユーザーさんなので、勿論自分で料理も作れます。自分のキャンプ用品を一式持って各々が家族単位でキャンプをしているようなイベントですが、当社が昼にテントに訪問し色々ご意見を伺います。夜は焚き火トークという時間を設け、焚き火を囲みながら当社に対して様々なご意見を頂戴する時間です。

今は時間制限があり、夜の10時か11時で終わりですが、当初は深夜2時か3時までユーザー様と焚き火を囲んで色々なお話をしました。なかでも1番最初のSnowPeakWayの焚き火トークのときで、当社にとって大変貴重なご意見をいただきました。

当時は問屋を使っていました。1988年に時代のニーズに合致したオートキャンプのシステムを打ち出し、一代ブームになりました。1993年にはオートキャンプ人口が日本で2千万人となりました。1988年まで日本ではアウトドアといえば登山を意味していたので、キャンプ人口は約10万人程度だったと思います。その当時日本でキャンプをしている人は9,800円の安いテントを使い、カップラーメンをすすって安く済ませるというスタイルだったため、当時はキャンプをしているというと、“家が貧しい”というのが社会通念だったように思います。1988年以降、時代のニーズに合致した提案をスノーピークがした結果、キャンプ人口が2千万人にまで拡大しました。

その後1994年頃からマーケットは2009年まで縮小し続けました。当社の業界は皆さんから見ると良い業界に見えるかもしれませんが、そんなことはありません。1回目のブーム以降は2、3年前まで下り続けています。その最中、お客様の声に耳を傾け、自分たちの存在意義を確かめることを目的としてSnowPeakWayというキャンプイベントを行い、第1回目の夜の焚火トークで“スノーピークの製品は高い”とお叱りを受けました。

当時は当社のテントが8万円でした。9,800円、1万9,800円の品質の悪いテントから比較するとスノーピークの完璧なテントは4倍高かったのです。しかし年間50~60泊するようなユーザー様にとってはそのテントを買うしかなかったので、仕方なく買っていました。使用に耐えるテントはスノーピークしかありませんが、“足元をみて高くお金を取っている”と思っていた人もいたようです。

30組のユーザー様とお話をしましたが、結果、全員の方がおっしゃいました。「社長、高いよ。高すぎるよ。」私たちは高いと思っていなかったのでショックでした。

もう一つは、当時スノーピーク製品の取扱店が日本全国で約1,000店舗ありましたが、「どこにいっても物が買えない。」、「品揃えが悪いお店ばかりだ。」と言われました。前は問屋を使っていたので、問屋のその先にどんな販売店があるのか、また品揃えの状況がどうか理解できていませんでした

「高い」「買えない」という二つの苦言を受けたことは、当時当社にとって非常にショッキングなことでした。しかし、スノーピークのビジネスはアウトドアの愛好者の方々、キャンプを楽しんでいる方々を幸せにする事がミッションなので、真のユーザー様からのフィードバックは非常に重く捉えました。

2000年のシーズンから問屋を辞めて、約1,000店舗の取扱店も250店舗の正規取扱店だけに減らし、全てのスノーピークの製品を置いてくださるディーラーだけと取引する事にしました。マーケットは2009年まで縮小し続けましたが、数あるアウトドアメーカーの中で、スノーピークだけが2000年から増収し続けています。

それはユーザー様の声を真剣に受け止め積極的に改善していったからです。8万円のテントは5万9,800円になり、車で30分くらい移動すれば全てのスノーピーク製品が買えるようになりました。今のスノーピークのビジネスモデルは、初回のSnowPeakWayの焚火トークでのお客様とのフィールドワークによって構築されたと言っても過言ではありません。

ここで言えることは、福島から全国へ、また世界へ様々な発信をする時には、皆さんの真のユーザー様が誰で、皆さんが提供している製品・サービスに満足しているかどうかが大切であるという事です。それは地方から発信しようが東京から発信しようが、全てのビジネスにおいて同様です。グローバルなビジネスでもローカルなビジネスでも全て同じだと思うので、フィードバックが起こるような仕組みを持つと良いと思います。

耳の痛い内容が返ってきますが、痛いことに報いると、その後は非常にユーザー様のためになれて、会社の業績になるのではないかと思います。

 

 

講演会【後編】はこちらから。

 

※はじめっぺ直売所では季節に応じて様々な福島県産品を販売しております。

 

 

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