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【後編】地元のモノづくり技術を活かし、世界一のアウトドア会社へ

2014年12月20日に会津大学で行われた、「講演会:地域産業の未来を拓く ~会津と新潟の変革の現場から」における、株式会社スノーピーク山井太社長の基調講演をノーカットで掲載します。講演の9日前、12月11日に東証マザーズに上場をしたばかりのタイミングでの貴重な講演録です。

前編をまだお読みでない方はこちらから。

 

【目次】

■人生に、野遊びを。 ―当社が目指す企業像―

■昨年対比120% ―毎年シェアを拡大しているスノーピークの戦略―

■都市にも癒しを―新規事業の推進アーバンアウトドア事業―

■燕三条の技術を世界に―世界展開する地域ブランド―

 

 

人生に、野遊びを。―当社が目指す企業像―

日本におけるキャンプ人口は、93年には2,000万人、2000年には1,000万人と半分に減っており、直近では約750万人減っています。2、3年前からは少し反転し、団塊のジュニアのみなさんが結婚してファミリーになっているため、ファミリーキャンプ人口の増加が見込めますので、今後10年~20年はマーケットが拡大していくと考えています。

当社は“人生に、野遊びを”というキャッチフレーズを発信しています。既存の事業(カテゴリー)は、大きく分けてオートキャンプ事業と登山のバックパッキング事業です。また、新規事業としてアーバンアウトドア事業、アパレル事業、フィールドスイート事業に取り組んでいますが、それらの事業全てを総称して”野遊び”という言葉で表現しています。「スノーピークってどんな会社なのか」と聞かれたら「野遊びカンパニー」だと言っています。

 

 

昨年対比120%―毎年シェアを拡大しているスノーピークの戦略―

既存事業の成長は着実に行い、その上に新規事業を重ねていくようなイメージで成長していきたいと思っています。

既存事業については、新しいお客様を獲得したいと考えております。キャンプだけでなく、アパレルやシューズなど全てのアウトドア関連商品のトータル売上高は、2009年が1,890億円、2014年には2,500億円を超えるのではないかと言われています。スノーピークの過去5年間の平均成長率は、マーケットの成長率5.9%に対して、同じ時間軸で平均約20%成長しており、業界の伸び率の3倍の成長率を記録しています。

スノーピークは製品がシステムデザインされているブランドなので、ドームテント、タープという幕体(まくたい)、その下にレイアウトするキッチンシステム、それら全て取り扱っています。

お話した様に“アメニティドーム”という2万9,800円の非常に強い製品があります。この製品は国内で今年10月末までに1万5千張り売れたのですが、最終的に今年の販売数量が1万7千張り程度になると考えています。既に10月末まででこの1製品だけで4億5千万円の売上高です。日本のキャンプマーケットは450億円なので、業界全体の1%を占めることになります。非常に強力な製品です。その製品を買っていただいたお客様に対して店長がご連絡を差し上げ、他の製品もご提案させて頂きながら、トータルで高いクオリティのキャンプスタイルを味わっていただければと思っています。

ユーザー様にはポイントカードも発行しており、去年の年末時点で約9万人の会員が登録していて、今年は更に2万人のお客様が増えて、合計で約11万人のお客様がスノーピークのポイントカード会員になられています。今年の2万人のお客様のうち、1万5千人は“アメニティドーム”がきっかけとなったお客様です。

当社の既存店の売上高は昨年対比120%になっており、今年はそこに新店が加わりましたので、全体の売上高は昨年対比で125%になりました。国内50~60店舗くらいの会社で、既存売上高が昨年対比で20%もアップしている会社は、あまり他では聞いたことがありませんね。

利用実績ごとにカードの種類を分け、科学的なセールスや仕組みを持っている

 

今後の出店に関しましては、2019年まで計画に落としこまれています。直営店は現在の6店舗から30店舗に、インストアは46店舗を100店舗に、ショップインショップ38店舗を150店舗程度に拡大していきたいと考えています。

過去の海外展開において、韓国と台湾に当社が作ったオートキャンプのシステムをそのまま文化輸出し、それぞれで500億円、150億円のマーケットを作ってきました。同じようなことをASEAN諸国や中国本土に拡大していくというのが今後の海外の成長戦略の一つです。欧米の登山バックパッキングのマーケットには、新製品が今年の12月以降たくさん投入されていきますので、欧米でもマーケットシェアが拡大していくことでしょう。

 

 

都市にも癒しを―新規事業の推進 アーバンアウトドア事業―

新規事業について3点お話します。まず一つ目はアーバンアウトドア事業です。日本人口約1億2,600万人に対してオートキャンプ人口は750万人だと言われています。つまり人口の約6%は、週末にはキャンプ場に行き、家族と自然の中で楽しい時間を過ごして癒されています。こういった方々には我々のソリューションが届いているという事です。言い換えれば、文明社会のなかで日々のストレスから解放され、人間性が回復できている人は6%にすぎないとも言えます。その人たちを7%、8%と増やしていきたいと考えています。

注目すべきは、ストレスから解放されずに人間性を回復できていない残りの94%の人だと思うんです。何とか手を指し延べなければならないと考え、アーバンアウトドアという、都市でも自然と人をつないで癒しを提供しようという事業を始めました。もちろん、アーバンアウトドア用の製品も開発していく予定ですが、オートキャンプ用製品の都市部での使い方提案も積極的に行っていきたいと考えています。

そして、アウトドア事業とアーバンアウトドア事業をつなく役割を果たすのがアパレル事業です。2014年秋冬からアパレル事業を本格化させました。コンセプトは“Tent⇄Home”。まさにアウトドア事業とアーバンアウトドア事業を行っているスノーピークならではのコンセプトで、他社はマネできません。今日私が着てきたのはウールのフリースです。キャンプは焚き火をするので、ポリエステルのフリースだと火の粉で溶けて穴があいてしまうことがあります。しかしウールのフリースは溶けにくいんです。値段はポリエステルのフリースより少し高めですが、そのぶん機能もデザイン性も高いモノになっています。

ここがすごく大事なことで、この様な服をデザインした結果、全米のアパレル業界が注目している、ニューヨークの有名セレクトショップに取り扱って頂くことになりました。また、単に取り扱いがスタートしただけでなく、ポップアップショップの展開など、破格の扱いをして頂くことに成功しました。このニューヨークセレクトショップは日本の有名セレクトショップが注目しているお店であり、日本や韓国での今後の反響が大いに期待されます。

 

 

燕三条の技術を世界に―世界展開する地域ブランド―

先ほど燕三条の話をしましたが、600年前の燕三条の遺跡から出てきた、鋳物の丸鍋についてお話したいと思います。写真のとおり、足が3本ついていて、現代のダッチオーブンにとてもよく似た形をしています。

600年前の燕三条の遺跡から出土された鋳物の丸鍋

 

ダッチオーブンは、キャンプ料理に最適な万能鍋なので、当社でもオリジナルのダッチオーブンを作りたいと考え、15年程前に燕三条にある鋳物屋さんへ話をもちかけたところ、鋳型に使用する砂が工業部品用と鍋用では違うからできないよと断られた経緯がありました。その後に、地元の遺跡からこの丸鍋が出土されたんです。

そもそも、ダッチオーブンは“ロッジ”というアメリカの会社が世界中に広めていった経緯があるのですが、アメリカに移民したオランダ人が作った鉄鍋を使い、焚き火で料理をしながら開拓していったそうです。一般的なダッチオーブンは非常に大雑把なつくりのものが多く、大量生産で、厚みが8ミリくらいあり、重くて錆びます。

しかし、この(燕三条の遺跡から出土した)600年前のお鍋は厚さが2ミリしかありませんでした。非常に軽くて硬くて品質も良いものでした。私は600年前の人々が作れて、現代の自分達に作れないはずがないと考え、もう一度地元の鋳物屋さんに訪問、「15年前に断られたけど鉄鍋が地元からででてきたよ。あの時、「砂が違うからできない。」と言っていたけど、既に地元で作っているんだよ。と説得。それならトライしてみようということになり、結果、厚みの薄い軽量化された鉄鍋「燕三条極薄鋳鉄シリーズ」が完成しました。

土地の記憶というのは凄いなと思っています。例えば“和釘”の話をしますと、三条というところは、水害が多く、五十嵐川という川が町の真ん中に流れているのですが、11年前にも大氾濫を起こしました。江戸時代より氾濫が多く、建物を建て替える需要も多くあったため、東京から和釘職人を連れてきて作り始めたのが、燕三条の新しい産業の中でもひとつのきっかけになっています。

スノーピークには“ソリッドステーク”というペグがあります。高温で熱した鋼を叩いて成型する鍛造という製法で作っているペグです。ペグというのは、テントやタープのロープ(張り綱)を地面に固定させる大きな釘のようなものです。当社以外のペグはプラスチック製やアルミ製のものが多く、プラスチックのものなどは地面にすら入らないものもあります。その分、値段は安く一本50円くらいで販売されています。

一方で、当社のものは一本約420円ですが、アスファルトを貫通するほどの強度があり、和釘と同じスペックで作られています。今まで累計約300万本作られています。燕三条で作られており、伊勢神宮の遷宮を支えている和釘の技術で、当社のキャンプ用テントも支えてくれています。

スノーピークは、燕三条にある製造技術や土地の記憶、文化など、自分たちがプラットフォームになり、それらをアウトドアのライフスタイルに変換し、グローバルに発信している会社だと言うことができますが、そこに地域おこしのヒントがあると考えます。今は50億円の会社ですが、5年後には6倍ぐらいの会社にします。完全な地場産業から始まり、グローバルに視野を広げた会社はこれまで、それほど多くはないと思いますが、当社が出来るのですから皆さんにできない理由はありません。

世界に当社が進出した際には、マイクロストーブという世界で一番小さく、世界で一番軽く、世界で一番コンパクトな、ガスコンロを作りました。また、世界の人たちがアッ驚くような小さいランタンを98年に作りました。これらの製品を引き掲げてアメリカとヨーロッパを攻めていき、スノーピークをグローバルなブランドにした後、韓国・台湾という形でアジアマーケットを広げていったのです。

卵の殻をイメージしたインパクトのある広告

 

上記の広告は印象的なビジュアルで作りました。この製品と広告だけでスノーピークはグローバルなブランドになったと言って過言ではありません。他者評価として、この製品でグローバルなアワードも受賞しました。

その後ヨーロッパに行きました。グローバルフロンティアさんというドイツのリテーラーがとても立派でカッコイイお店をケルンにオープンするという情報を聞いて社長さんにアポイントを取って商談した結果、その店内にスノーピークストアの出店を果たしました。ヨーロッパで1番凄いアウトドアストアなので数多くの方が足を運びます。同店でスイス、イギリスの人たちが初めてスノーピークのことを知り、そのほとんどが取引を開始してくれました。

約5年前、韓国に会社を作った時には記者会見を行っているのですが、韓国の全ての雑誌に取り上げられました。韓国でもSnowPeakWay(キャンプイベント)を行っておりますが、日本のキャンプのイベントと変わりません。ソウルにあるスノーピークKoreaの本社施設は、5階建てのビルを一棟借りていて、ここに行ければスノーピークの世界観がわかるような施設になっております。

新潟にある本社Headquarters(ヘッドクォーターズ)を建設してよかったと思うことは、自分たちの燕三条という地盤に、外から5万人もお客様がいらっしゃるという事です。もちろん我々スノーピークは燕三条発で、製品をグローバルに提供しております。福島からは近いですが九州や北海道、台湾、アメリカからもキャンプをしにいらっしゃいます。そういう意味では、グローバル展開をしているスノーピークの聖地が燕三条ということで、足を運んでくれます。

福島も魅力的なフィールドがたくさんありますし、私はフライフィシィングをするので奥会津の方に釣りにいくのですが、美しい自然も多いし、きれいな川があります。そうした地盤を活かしても良いと思います。

 

講演会【前編】はこちらから。

 

※はじめっぺ直売所では季節に応じて様々な福島県産品を販売しております。

 

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